1930-1940 Vintage French Wool/Cashmere Herringbone Sports Jacket
まだまだ機械や技術の進歩が今ほどではなく、多くを人の手と経験とカンに頼っていた時代。この一着を仕上げるまでにかかった時間と手間は、今とは比べ物になりません。原料の欠点を補う技術や機械が今ほどでは無く、また安価な品物の見た目だけを取り繕ろうという発想がなかった時代、良い生地を作る為には、何よりも本当に良い素材が必要で、細い糸を紡ぐためには、本物の長くしなやかな繊維を持つ綿や羊毛が必要でした。
昔なら糸にできなかったような短く不揃いな繊維からでも、一見するとしなやかで綺麗な細い糸を紡ぎ出す技術や、そう見えるような加工技術が今では確立されています。このような糸で織られた生地や編まれたニットは、着込めばすぐに毛羽立ったり、毛玉ができたり、色が褪せたりして、原料の粗悪さを露呈するものですが、最初の見た目の体裁だけは整っています。
着る人の手に渡る時が一番良い状態に見えるように体裁を整えた服が多くを占めるようになった頃から、豊かさと引き換えに服は消費されるだけの嗜好品となってしまい、穴をかがったりつぎを当てたりしてまでも着続けるものでは無くなってしまいました。
ウールにカシミアがブレンドされた当時としては贅沢な生地のこの1着も、随所に擦り切れやほころびのある、持ち主が存分に着込んだ時間と愛用の印をまとっています。
このころはまだまだ裕福な人達や都会のエリートの一部を除いた、庶民や郊外、地方に住むほとんどの人々にとって、ジャケットもパンツもジレもシャツも、仕事にも作業にもプライベートにも着る文字通りの一張羅で、ほころびを繕い、擦り切れを糸で覆い大事に着続ける物でした。
普通に暮らす普通の人々が身につけていたその頃の当たり前のもので、特別に高価だったり、上等な物でもなかったはずの服。擦り切れ、汚れ、穴が開き、継ぎが当てられ、傷んだところを糸で塞がれた服。それがただのゴミにならず、今でも得難い趣を保ち続けているのは、この服がこうなるために必要だった時間の重さだけでは無く、本質的な素材自体にごまかしの無かった頃の、糸や生地が醸し出すものがあるからなのだと思います。
軽く起毛され、柔らかながらも適度なボリュームと、静かで上品な抑えた色調のソフトなブラウンの入り混じったヘリンボーン。どこかの町の名もない仕立屋さんが作った吊るしを買ったのか、簡単ながらも注文で仕立てのものなのか。ビスポークというほどに凝った作りではありませんが随所に手の入った1着です。
時を経ても変わらない今では再現しようもないヴィンテージならではのウールのテクスチャーは見事です。
生地作りも縫製も、技術が進化した現代では望むべくもなく再現もできないかつての職人たちの作り上げたものなのです。
ボタンホールや衿周り、その他随所に見られる手の仕事。高めのゴージ、細く小さ目のラペル。とてもモダンなバランスです。
コバのステッチを解く事で、端々衿や裾に空気を含んだ豊かな表情が生まれます。
フラップ裏やポケット袋布をラスティックコットンにとりかえて、コントラストと動きと清潔感のある豊かな表情。
閉じられていた袖口は、変形の本切羽に作り変え。開けても折り返しても、現代的なニュアンスを醸し、着こなす楽しみを広げるポイントになります。
手仕事だからこその変則仕様のベントや切羽、手縫い皺も美しい柔らかな仕様です。
キュプラのライニングと取り替えた、ラスティックなコットンブロードは、適度な張りとシワ感が有り、インドで織られた素朴な糸の表情が魅力です。
流行やブランドや値段の多寡に惑わされない価値観を持った方々のその人自身を魅せる衣です。
サイズ 3(48=L相当)
肩幅 =45cm
バスト=53cm(脇下)
袖丈 =63 cm
着丈 =75cm
フランス/日本
表地 ウール/カシミア ヘリンボーン ウール/カシミア
ライナー ラスティックコットン コットン100%
ボタン バッファローホーンボタン(ランダムチョイス)
アンティークファブリックカバーボタン
STOREへのリンク
1930-1940 Vintage French Wool/Cashmere Herringbone Sports Jacket
[ALTERATION By Manure of Drawers] SOLD