新しいけど古いもの

新しいけど古いもの

Vintage L.Herbaut-Denneulin Tailor-made French Jacket

Vintage L.Herbaut-Denneulin Tailor-made French Jacket

 

 

1950-1960 Vintage French Tailor-made Jacket made by L.Herbaut-Denneulin

 

 

 

高めのノッチと小さめのラペル、タイトなVゾーンの60年前の仕立てとは見えない今の着こなしに十分にフィットするテイラーメードのジャケット。この一着は、1950年代のものとしては極めてモダンな部類に位置するとても貴重なものだと思います。

 

 

 

 

 

 

まだ合成繊維が一般人の間には身近なものではなく、高級な裏地(キュプラ)や女性のストッキング(ナイロン)、絹の代用品としてのシャツやドレス(レーヨン)といったどちらかというと女性寄りの用途が多かった頃、開発されて間もない最新の素材のポリエステルを男性にとって一番重要なジャケットに仕立てた当時としては非常に冒険に溢れた1着です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「TERGAL」は古着屋さんなどの商品説明で、「TERGAL社の〇〇」と言う風に、ブランドとして説明されている事を良く見かけます。ワークウェアなどの製造者表示は簡素な物がほとんどで、そもそも表示自体の付いていないものも多い中で、「TERGAL」の立派なしっかりした織りネームがその製品のブランドだと受け取られるのも無理の無い事に思えます。

実際にはこれは、アメリカのデュポンのポリエステルの商品名のDacron(ダクロン)や、日本の帝人と東レのTetron(テトロン)と同じように、フランスのSociet e Rhodiacetaが製造したポリエステル糸の商品名のラベルです。

 

 

 

 

 

 

現代では合成繊維全体の86%(ナイロンは8%)の製造量を占め、大量生産と安価の代名詞となっているポリエステルも、このジャケットが仕立てられた1950年代にはまだ開発され製品化されて間もない新繊維であり、流通量も用途も限定的で価格も安いものでは有りませんでした。

今の量産品のポリエステルのイメージには似つかわしくない織りネームには、当時の科学と工業技術の結集が生み出した最新の繊維のプライドと期待が込められていたのだと思います。製造発売元のSociet e Rhodiacetaが1981年に消滅した為、「TERGAL」ブランドラベルは今ではヴィンテージでしか見ることのできない物となりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[FIBRE POLYESTER ET LAINE]と書かれている通り、混率は不明ですがポリエステルとウールの混紡糸で織られたドスキンは、ウールだけでは作り出せない張り感と光沢とドライな表情と、ポリエステルだけでは生み出せないふくよかな触感を併せ持った60年以上も前の物とは思えない現代的なテクスチャーです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルギーとの国境に接するフランス北東部のROUBAIXで1911年に創業したL.HERBAUT-DENNEULINは、店のウインドウにVÊTEMENTS SUR MESURE(=注文仕立て)と書かれているとおり、顧客の要望に応じて服を作り上げる小さな町のテイラーでした。自分の店1軒で精一杯で終わる事が殆どの町の仕立て屋さんの中で、この店は商売熱心で商売上手だったようで、この地域の中で一番大きな街のLille(リール)へ支店を出し、やがてParis(パリ)への進出も果たしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未舗装のパヴェ(石畳)が続き、「北の地獄」や「地獄の日曜日」という愛称がつくほど過酷なことで有名な自転車のクラシックレース「PARIS – ROUBAIX」の終着点で名を知られていても、当時人口5万人程度の地方の町、ROUBAIXの仕立て屋が、花の都PARISで店を構えられたのは並大抵のことではないのだと思います。

当時目新しさはあっても実際の着心地や経年変化が未知数のポリエステル/ウールの生地を、注文仕立てのテイラーの仕事に取り入れる冒険と、それを受け止めて自分の1着を仕立てた顧客双方の進取の気性と気概が、それをなしとげさせた原動力に違いないのだと思います。

 

 

 

 

 

 

おそらくパリの店の方で仕立てられた物なのだと思いますが、仕立て主はこの頃の周りの誰もが見たことも触れたことも無い最新の繊維をいち早く身に付け袖を通す事に、ワクワクした気持ちが漲ったことだろうと思います。

創業の地ROUBAIXのAlouette(ひばり)通りに因んで、店のアイコンはひばりの図柄。1961年に50年の歴史の幕を閉じてしまいましたが、今見ても気の利いたラベルからは、このテイラーのセンスの良さが感じ取れます。

 

 

 

 

 

 

ウエストにシェイプを効かせた、このころならではの美意識が注がれた、コンパクトなフィット感。丸みを帯びたシェイプに変更したヘムのラインはクラシックな表情を醸します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深いブラックのシックな印象の生地とは裏腹に、タフな着用感がこのジャケットが単なるお洒落のための外出着では無く、普段着も仕事着を兼ねていたことを物語ります。袖口や裾のダメージへ施したdarningが、この頃の暮らしを飾ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手かがりのボタンホールや衿周り、その他随所に加えた手の仕事。作り替えたポケットの袋布は、長年溜まってこびり付いていたた正体不明の埃を除き、アクセントを与えます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラップ裏やポケット袋布をラスティックコットンにとりかえて、コントラストと動きと清潔感のある豊かな表情。

 

 

 

 

 

 

閉じられていた袖口は、変形の本切羽に作り変え。開けても折り返しても、現代的なニュアンスを醸し、着こなす楽しみを広げるポイントです。

 

 

 

 

 

 

手仕事だからこその、手縫い皺も美しい柔らかな仕様です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュプラのライニングと取り替えた、ラスティックなコットンブロードは、適度な張りとシワ感が有り、インドで織られた素朴な糸の表情が魅力です。

 

 

 

 

 

 

流行やブランドや値段の多寡に惑わされない価値観を持った方々のその人自身を魅せる衣です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイズ 2

肩幅 =41cm 

バスト=54cm(脇下)  

袖丈 =60 cm 

着丈 =73cm

フランス/日本

表地   ポリエステル/ウール(TERGAL et laine)ドスキン  混率不明           

ライナー ラスティックコットン       コットン100% 

ボタン  バッファローホーンボタン(ランダムチョイス)

               アンティークファブリックカバーボタン

 

 

 

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1950-1960 Vintage French Tailor-made Jacket made by L.Herbaut-Denneulin

[ALTERATION By Manure of Drawers]  SOLD