新しいけど古いもの

新しいけど古いもの

19th Century Antique French Linen Maquignon Biaude Coat

19th Century Antique French Linen Maquignon Biaude Coat

 

 

 

End of the 19th Century Antique Pure French Linen with Pure Indigo Dyed French Maquignon Biaude Coat

 

 

 

テーラーリングをベースとした立体的なパターンメイクや、機能性とファッションとしての装飾性を見事に融合、昇華させたフランスのワークウェアの世界。撚り杢のソルト&ペッパー生地のアトリエコートやフレンチサージやモールスキンのカバーオールやワークパンツ、太畝ピケのハンティングジャケットなど独自のスタイルを見せながらも、現代に通用するモダンさを持ったスタイリッシュなワークウエアが勢ぞろいする中で、全く違った魅力を持つのがBiaudeです。

 

 

 

 

 

 

19世紀末に作られたBiaudeです。19世紀から20世紀中期ぐらいまでに着られていた、中世以降の農夫の作業着だったチュニックやスモックが原型となったもので、馬や牛の放牧などの牧畜者、羊飼いなども着たと言われていますが、中でもMaquignonという名で呼ばれる馬の仲買人が着ていたことがよく知られています。

 

 

 

 

 

 

Maquignonは元々オランダ語のmakelare(仲介や交渉)から派生した名称で、当初は馬のディーラーを指していましたが、やがて馬主や飼育業者までを指す言葉となっていったようです。

 

 

 

 

 

 

フランスの馬の飼育ではノルマンディーが有名ですが、フランスにはもう一つオーベルニュ(Auvergne)地方というフランスの中央山塊の農業条件不利地域があり、この地域のカンタル県でも馬飼育の長い歴史があります。耕作に適さない山地のオーベルニュでは、牛飼養農家が全体の約70%を占め、残りを羊飼養と馬飼養、耕種農業が構成しています。

 

 

 

 

 

 

このオーベルニュ地域の家畜農家が昔から着ていて、仕事着にも正装着にもしていたインディゴで染められたリネンのスモックが、馬の取引に来たMaquignonに伝わってBiaudeとして広がっていたのではないかという説があります。この写真は正装をして「オーベルニュのブーレ」という曲を踊る19世紀の村人の姿です。

 

 

 

 

 

 

オーベルニュにはもう一つ、耕作が出来ず貧しかったオーベルニュの人々が出稼ぎに出て、水道のなかった頃には水を担いで売り歩き、水道が普及すると炭を売り、炭を売るための保管場所の部屋を借り、その部屋の片隅で酒や飲み物を売り始めたのが、フランスのカフェの始まりという話があります。実際に20年ほど前まではカフェの80%ぐらいがオーベルニュ出身者で占められていて、フランスが世界に誇るカフェ文化を作り上げているのが、パリの洗練とは対極の位置にある田舎の出身者だというのは不思議な対比です。朝早くから夜遅くまで休みなく飲み物も酒も食べ物も提供するカフェは、忙しくきつい商売なので後継者が不足して、現代でもそういったきつい仕事を厭わない中国人が権利を引き継ぎ、オーベルニュに人にとり変わろうとしているのは、寂しい時代の趨勢です。

 

 

 

 

 

 

 

 

1850年あたりの、牛や羊など家畜業者が集まるパリのLa Villetteの家畜・食肉市場の写真には、BiaudeやVilletteと呼び名のついたワークコート(後のアトリエコート)を着た人々の姿が映っています。Biaudeを着て、牛や馬を引いて続々とパリの街中の市場へ集まってくるMaquignonや家畜業者の姿は、きっと普通の市民にとっては印象深い光景だったのだろうと思われます。

 

 

仕事や作業をするときの上っ張りとして、古くからの民族衣装が転用されて発達したのだと思われるこのワークウェアは、都市部や工場などで産業の発達とともにスタイルが出来上がっていった、一般的にイメージされる“フレンチワーク”と呼ばれるワークウェアよりも深いルーツに根ざしていて、ひときわ異彩を放つフォルムに深い趣きがあります。

 

 

 

 

 

 

年代が若くなるにつれて前に開きのあるコートタイプのものが増えましたが原型はも汚れや家畜の毛がつかないようにする為の上っ張りとして、着ている服の上に頭からかぶって覆うノーカラーのスモック形が主でした。

 

 

 

 

 

 

この1着もプルオーバーのノーカラースモックのタイプの物でしたが、現代的な着やすさを考えて、前開きを作り、衿を付け、ライニングを施すことで得られる清潔感と、内側と外側のテクスチャーのコントラストを楽しみ羽織れるアウターとしてALTERATIONを行いました。

 

 

 

 

 

 

特徴的なのは、服の上からかぶり込んでも窮屈になったり、動きを妨げたりせず仕事や作業をこなすための運動性を保つ、手で丹念にたたみ込まれ、折りあげられた分量たっぷりのギャザーです。

 

 

 

 

 

 

通常の服の身幅の倍以上の分量を、衿の付け根のネックラインの前後や横部分など全体に寄せた、ギャザーが作り出す膨らみと丸みとボリューム感はこの服の最大の魅力と特徴、他には類を見ない物です。

 

 

 

 

 

 

この特別な作りが生み出すフォルムはともすれば女性的と捉えられがちですが、実際にはMaquignonと呼ばれる仕事に従事していたのは男性であり、Biaudeもフランスの男の仕事着を代表する存在の1つです。

 

 

 

 

 

 

同じ頃にアメリカで牧畜に携わっていた人々の仕事着である所謂カウボーイやウエスタンのスタイルと比べればその存在感と独自なスタイル、フランスという国の国柄を感じます。

 

 

 

 

 

 

Biaudeやフランスの古い時代のスモックは、農家の奥さんなどが、ちゃんとした機能的なパターンメイキングの知識や理論のない頃から考え出された型にのっとって、家に代々伝わってきた方法で手作りし、古い型で作られたと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Biaudeの原型は、アトリエコートやモールスキンなどの、所謂フレンチワークウェアがもつ立体的で曲線的な体に沿うパターンとは対極的な直線で切り取られたの四角形のパーツの組み合わせで作られています。大分量のギャザーがとられたボリューミーで丸みがる柔らかな印象のBiaudeの原型が四角形の組み合わせというのも面白いものです。

 

 

 

 

 

 

四角形のパーツを組み合わせたのは、服飾パターンが未発達だった頃から作られていた物だからという事と、「生地を無駄にしたくない」という両面の考え方による物でだろうと思います。曲線的なパーツだとどうしてもパーツを切り出す時に、パーツの間に隙間ができてしまってその分が無駄になります。

 

 

 

 

 

 

とは言っても、その直線的な原型では不足するの運動量をカバーして動きやすくするため(と装飾性を加えるため)に施したギャザーの分量が、生地の用尺を大量に必要とし、このBiaudeも今の通常のパターン手法で作られれば、この半分ぐらいの生地量で大丈夫なのではないかと思えるところにも、矛盾を孕む面白さがあります。

 

 

 

 

 

 

腕の付け根の脇の部分には、腕を上げた時に脇全体が引っかかって突っ張ったり、作業の妨げにならない用にするために四角形のマチが作られています。

 

 

 

 

 

 

作り手にもよりますが、殆どのBiaudeの肩は幅がかなり広く作られてます。ヨークが無いので肩の前後位置が定まりにくい上に、10cm近く落ちてしまう肩と脇が身頃を引きずって、分量がある割に動きを妨げられる感覚がある場合も多いのです。この一着では、一旦袖と肩を解体して肩幅を調整し、その分不足する袖の長さと袖ぐりの広さを加えています。元々の味わい深い作りを壊さない範囲で、着やすさにも配慮しました。細かく手縫いで折り止められていた、肩と脇の縫い目の縫い代を解き、同じように手縫いで仕上げています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上っ張りとして作られたこの一着にはポケットが無く、内側に手を差し入れられるスリットだけがありました。元のカフスのパーツを利用して新たにポケットを作り、今のアウターとしての必要を満たしました。

 

 

 

 

 

 

機能性を優先させるのが普通であり、製作上から考えても縫製の手間や無駄を省き生産効率を高める事が当たり前の仕事着に、このようなデザイン性を求め加える事にも、フランスというモード発祥の地が培った“ ファッションの原点 ” が感じられます。このようなデザインは機能だけを求めるのであれば必要ないはずで、仕事でもファッションを楽しむ、かつてのフランス人の遊び心の表れなのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

このBiaudeの生地としてポピュラーな生地は、世界のリネン原料の亜麻生産の70%以上を生み出し続けるリネン大国フランスならではの、仕事着に使うのがもったいないほどの贅沢なリネン生地です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

細番手のリネン糸で、高密度に織り上げた目の詰まった生地は機械技術がまだまだ未発達でほとんど職人の手仕事で麻を処理し、糸を紡ぎ、織り上げた時代のものとは思えないほど細くしなやかな糸で稠密に織り上げられていて動物の毛がつきにくく払いやすいように考え出されたものです。

 

 

 

 

 

 

汚れを目立たせないためにも濃いインディゴブルーに染め上げられた生地は、Biaude独特のものです。このBiaudeが作られた1800年末頃には、ヨーロッパ独自の藍染め方法であるウォードによる藍染はすでに、15世紀から始まったインドから輸入されるインド藍による藍染め方に駆逐されてしまっていました。藍染めの技術の革新である、合成インディゴの普及は1897年以降でしたから、この1着は、天然のインド藍による藍染めリネンが作られていた時代の貴重なものにあたります。

 

 

 

 

 

 

しっかりとした手触りと張りがありながら、柔らかさと軽さを併せ持つ麻の良い部分だけを集約したかのような昔の生地特有の素朴な趣きを残す風合いを持っています。

 

 

 

 

 

 

オリジナルの袖先のカフスは、作業時に邪魔にならないようにギャザーを寄せて絞ったタイトな袖口を止めるためだけのものでした。アウターとしての機能を加えるに当たってカフスの分量をを少し広げ、ターンアップするダブルカフスにデザインしたものに作り替えました。ラウンド型でステッチの無いカフスは、仕事着のものとはまた違ったソフトな印象があると思います。

 

 

 

 

 

 

ライニングの裾はリネンのハンドステッチ。ライニングの他の箇所もすべて手によるブラインドステッチです。ミシンでは作り得ない自然な縫いしわが時間の痕跡を映します。

 

 

 

 

 

 

ボタンホールはすべてハンドです。リネンコードであえてラフにかがった、味のあるものです。

 

 

 

 

 

袖の長さを継いだ部分や、袖先のハンドステッチとダーニング、刺子による補修が趣を深めます。

 

 

 

 

 

 

内ポケットはハンドの内縫いで止めた縁の浮いた立体的でふくよかな表情です。

 

 

 

 

 

 

時間の痕跡が刻まれたフレンチヴィンテージのガラスボタン。

 

 

 

 

 

 

時には裏側を表に出して着てみたりしても面白いかもしれませんね。男性にも女性にもお薦めしたい1着です。

 

 

 

 

 

 

働くひとたちのものだった事と示す、擦り切れ、破れを丹念に手でかがり、裏地をあてて糸を刺し、穴に糸を組んだ補修の数々。意図して作る事の出来ない経てきた時間を楽しんでいただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、現代にも通じる洗練された趣あふれる佇まいを持つ、フランスの古いけれども古びれない1着です。

 

 

 

 

 

 

サイズ 2(M相当)

肩幅 =45cm 

バスト=60cm(脇下) 

袖丈 =60 cm 

着丈 =90cm

フランス/日本製

フロントファブリック  ピュアフレンチリネン   リネン100%   

バックファブリック   ラスティックコットンブロード   コットン100% 

ボタン    ヴィンテージ フレンチガラスボタン&古布くるみボタン

 

 

 

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End of the 19th Century Antique Pure French Linen with Pure Indigo Dyed French Maquignon Biaude Coat

[ALTERATION By Manure of Drawers] SOLD