19th Century Antique Hand Woven Heavy French Rustic Indigo Linen Chore Work Worker Coat
昔のフランスのワークウェアの良さは、何と言ってもテーラーワークを基本にしたパターンと縫製が作り出す立体的で曲線的なデザインと、雰囲気溢れる生地の表情。アメリカやイギリスのように、コントラストをつけた太く頑丈なステッチが、2重3重に入るタフで無骨なワークウェアとは全くの別世界の代物です。
撚り杢のソルト&ペッパー生地のアトリエコートやフレンチサージやモールスキンのカバーオールやワークパンツ、太畝ピケのハンティングジャケットなど、独自のスタイルを見せながらも、現代に通用するモダンさを持ったスタイリッシュなワークウエアが勢ぞろいする中で、全く違った魅力を持つ仕事着がフランスにはあります。
一般的な労働着以外にも食糧自給率が120%を超え、今も 欧州連合(EU)一の農業生産国のフランスには、農業や牧畜に従事する人々向けに作られたBiaudeなど豊かな感性に彩られたフランス独自の様々な労働着がありました。
そんなフランスのワークウェアの中でもこの1枚は異彩を放つ強面な表情を持った1着です。フランスならではのミニマルで立体的なデザインとパターンでありながら、野趣溢れる骨太な生地のテクスチャーは、今から100年以上前の物とは思えない現代的な意外性に溢れています。
手紡ぎのようなネップ感に溢れた撚りの柔らかなリネン糸を、ロープ染色と思われる方法で中白に染め上げたインディゴリネンを、手織りで織り上げたラスティックな生地。しっかりとした厚みと重量感のあるリネンの生地は、Biaudeに使われるVilletteの繊細な表情とはまた違った迫力を持ち、洗練や洒落っ気とは全く違った農業大国フランスの骨太さが伝わる、無骨さと素朴さが溢れています。
ヨーロッパのインディゴ染色は、15世紀頃まではウォードという植物による独自の藍染め方法がありました。その後バスコ・ダ・ガマのインド航路の開拓以来インド藍がインドから輸入されるようになると、値段や染色性、発色の良さから置き換えられてしまいました。その後の合成インディゴの普及は1900年以降となりますので、このコートの作られた19世紀末頃は、天然のインド藍による藍染めリネンが作られていた時代と考えられます。
このようにラスティックな生地を使っても働く人達のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、「着心地」と「デザインの洗練」を忘れないのがモード発祥の地、フランスのエスプリ精神の形なのだと思います。
体のラインに沿う肩傾斜や テーラーのような袖付けと、腕の稼働の必要性に合わせて曲線を描きだす美しい袖の作り。
顧客に合わせて仕立てられたものならではの、しっかりとしたボリュームと大きさがありながら、柔らかな曲線を描くシルエット。
この存在自体が貴重で希少なコートのフォルムを調整し、ベンタイルのライナーをライニングや、内ポケットを作り、ダメージの補修を行うなどのALTERATIONを加えた1着です。
ポケットは全て解体してフォルムの調整とダメージを補修、裏地を取り付けて膨らみのある表情にして手縫いで付け直しています。
テーラーワークを基本としたパターンメイクと縫製が、「 ファッション 」 と対極の位置にあるはずの「仕事着」を、今でも様々なメゾンやデザイナーがモデルとする高みに位置付けています。
手でまつりつけたライニング。手の温もりではなくストイックさを伝える不揃いなステッチ、縫い皺の表情や生地のコントラストが乾いた奥行きを作り出します。適度な厚みのある未晒しの素朴な風合いとしわが魅力の、インドで織られたコットンブロードのライニングは、表地とのコントラストと清潔感を作り出してくれます。
ライニングしたのはイギリスが生んだ高機能素材のベンタイルです。英国空軍のパイロットが撃墜などで冷たい海に投げ出された時にも、水の浸入を防いで体温の低下を防止して、それとともに内部の空気を逃さず浮力を確保して、救助を待てるようにと考えられた生地という事は、よく知られています。
長繊維綿の双糸を経緯ともに超高密度に織り上げることで、綿繊維の毛羽を稠密にすることによって撥水性を発揮させ、さらに長時間水に濡れることで水が浸透しても、水分による繊維自体の膨張が水の透過を遮断して許さないという自然素材だけで生み出された高機能さは日本でも防衛庁の海難救助服に採用されるほどです。
内部の汗や水蒸気は外に出す防水性、透湿性、通気性の三拍子に加えて、独特のハリ感とフラットな生地の表面感といった、生地自体のテクスチャーの良さという四拍子を備えた独自の位置付けを確立した生地です。
ハンドステッチでのベンタイルのライニング。手の温もりではなくストイックさを伝える不揃いなステッチ、縫い皺の表情や生地のコントラストが乾いた奥行きを作り出します。
全体に散らばる細かな擦り切れからは、かつての持ち主の愛着が伝わります。生地をあて、糸でかがり、糸を刺す。さまざまな手法で飾ったその痕跡は、意図して作れないものです。
着込まれ、働くことを経た事で得た細かなダメージの補修の彩りは決して加工では再現することのできない、創造性を持つ時間を映し出してくれます。
内ポケットはアンティークリネンのポケット口とハンドステッチが効いたソフトなフォルムで、端部を浮かせた手のすくい縫いがつくる丸みのあるもの。
ボタンはグレーの濃淡の色合いがモダンな味のあるデッドストックの樹脂のもの。首元まで留められるようにボタンを増やし、衿を立てられる仕様に。
リネンのハンドステッチが効いた、少し厚みを持たせたライニングの裾。
防水、高発汗、強靭、難燃。素材はどんどん高機能になり、形も運動性や作業効率を追求したものへと進化を続けてきましたが、ファッション的には退化しているに違いないワークウェアの世界。近年、フランス独特の際立った独自性がどんどん薄まってしまったり、アイテムそのものが作られなくなってしまったのは残念でなりません。
このコートのように昔のフランスのワークウェアは、働く人達のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、「着心地」と「デザインの洗練」を忘れないものでした。それこそがモード発祥の地、フランスのエスプリ精神の形だったのだと思います。今も多くのデザイナーやブランドが砂を吹きかけ、石と一緒に洗い、紙やすりで削り、薬品に浸し、倉庫に眠る古の生地を掘り起こし、100年前の機織り機を修理して生地を織り、眠っていたミシンに油を注して過去に遡り、時間を経なければ、簡単には手にすることの叶わ無いものを、再現しようと努力を続け奮闘しています。
でもそれは、長い時間を経てきたものへの憧憬を形にした、表層的な作り物にしか、なり得ないのかもしれません。ここにあるのは、本当に長い時間を経過した痕跡を凝集した本物に、現代性を融合させたものが形になった一着です。衣服は骨董的な価値を求めるものではありません。その時、その時代の「最新」を積み重ねて今に繋がる輝きを、現代的な着装や感覚と融合させ「古くて新しく、新しいけど古い」ものとして昇華させた世界に1点だけの存在を楽しんでいただきたいと思います。
サイズ2(M-L相当 )
肩幅 = 50cm
バスト= 63cm (脇下)
袖丈 = 58cm
着丈 = 110cm
フランス/日本製
フロントファブリック = Hand Woven Heavy French Linen / Linen 100%
バックファブリック = Ventile Cotton Cloth / Cotton100%
ボタン = Dead Stock French Resin Buttons & Antique Fabric Covered Buttons
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19th Century Antique Hand Woven Heavy French Rustic Indigo Linen Chore Work Worker Coat
[ALTERATION By Manure Of Drawers] SOLD