Early 1900’s Antique French Natural Indigo Linen Maquignon Smock Coat
撚り杢のソルト&ペッパー生地のアトリエコートやフレンチサージやモールスキンのカバーオールやワークパンツ、太畝ピケのハンティングジャケットなど、独自のスタイルを見せながらも、現代に通用するモダンさを持ったスタイリッシュなワークウエアが勢ぞろいする中で、全く違った魅力を持つ仕事着がフランスにはあります。
フランスの農村部などで、手作りされた古いリネンのスモックやBiaudeには、テーラーワークを基本にしたパターンと縫製が作り出す立体的で曲線的なデザインと、雰囲気溢れる生地の表情が魅力の一般的なフレンチワークウェアとは別の魅力に溢れています。
一般的なフレンチワークは、都市部とその近郊地域での産業や商業の発展とともに発達し、制服的な意味合いで製造され、支給されたり、購入され着用されました。服飾知識と技術を持った専門家によるデザインとパターン製作や、縫製や工程の管理を基本とした、工業生産品のワークウェア自体が立派な商品であり、産業革命や近代化の結晶でした。
一方、周辺の農村部などでは、生活や仕事着が近代化されるのは1900年代の中期以降でした。今も食糧自給率が120%を超え、欧州連合(EU)一の農業生産国のフランスには牧畜に従事する人々が作り上げたBiaudeや、農家の室内着や寝間着になったスモックなど豊かな感性に彩られたフランス独自の様々な衣料や仕事着が自らの手で、手作りされていました。
20世紀初頭に作られたBiaudeです。19世紀から20世紀中期ぐらいまでに着られていた、中世以降の農夫の作業着だったチュニックやスモックが原型となったもので、馬や牛の放牧などの牧畜者、羊飼いなども着たと言われていますが、中でもMaquignonという名で呼ばれる馬の仲買人が着ていたことがよく知られています。Maquignonは元々オランダ語のmakelare(仲介や交渉)から派生した名称で、当初は馬のディーラーを指していましたが、やがて馬主や飼育業者までを指す言葉となっていったようです。1850年あたりの、牛や羊など家畜業者が集まるパリのLa Villetteの家畜・食肉市場の写真には、BiaudeやVilletteと呼び名のついたワークコート(後のアトリエコート)を着た人々の姿が映っています。Biaudeを着て、牛や馬を引いて続々とパリの街中の市場へ集まってくるMaquignonや家畜業者の姿は、きっと普通の市民にとっては印象深い光景だったのだろうと思われます。
フランスの馬の飼育ではノルマンディーが有名ですが、フランスにはもう一つオーベルニュ(Auvergne)地方というフランスの中央山塊の農業条件不利地域があり、この地域のカンタル県でも馬飼育の長い歴史があります。耕作に適さない山地のオーベルニュでは、牛飼養農家が全体の約70%を占め、残りを羊飼養と馬飼養、耕種農業が構成しています。
このオーベルニュ地域の家畜農家が昔から着ていて、仕事着にも正装着にもしていたインディゴで染められたリネンのスモックが、馬の取引に来たMaquignonに伝わってBiaudeとして広がっていたのではないかという説があります。この写真は正装をして「オーベルニュのブーレ」という曲を踊る19世紀の村人の姿です。
オーベルニュにはもう一つ、耕作が出来ず貧しかったオーベルニュの人々が出稼ぎに出て、水道のなかった頃には水を担いで売り歩き、水道が普及すると炭を売り、炭を売るための保管場所の部屋を借り、その部屋の片隅で酒や飲み物を売り始めたのが、フランスのカフェの始まりという話があります。実際に20年ほど前まではカフェの80%ぐらいがオーベルニュ出身者で占められていて、フランスが世界に誇るカフェ文化を作り上げているのが、パリの洗練とは対極の位置にある田舎の出身者だというのは不思議な対比です。朝早くから夜遅くまで休みなく飲み物も酒も食べ物も提供するカフェは、忙しくきつい商売なので後継者が不足して、現代でもそういったきつい仕事を厭わない中国人が権利を引き継ぎ、オーベルニュ人にとり変わろうとしているのは、寂しい時代の趨勢です。
本当に着込まれて陽に晒され洗われ傷んだものだからこその、インディゴが描く意図しては作り出せない存在感。
手でステッチを入れた縫い代。ミシンなら一瞬の仕事にかける何倍もの時間。
細番手のリネン糸で、高密度に織り上げた目の詰まった生地は、世界のリネン原料の亜麻生産の70%以上を生み出し続けるリネン大国フランスならではの仕事着に使うのがもったいないほどの贅沢なリネン生地です。
まだまだ職人の手仕事に頼ることの多かった時代に、麻を処理し、糸を紡ぎ、織り上げた時代のものとは思えないほど細くしなやかな糸で稠密に織り上げられた生地は、動物の毛がつきにくく払いやすいように考え出されたということです。
元は濃いインディゴブルーに染め上げられていた生地は、Biaude独特のものです。ヨーロッパにはウォードという植物による独自の藍染め方法がありましたが、15世紀頃からインド藍がインドから輸入されるようになると、値段や染色性、発色の良さから置き換えられてしまいました。その後、合成インディゴの発明で藍染めも技術革新が進みますが、普及するのは1900年以降で、このBiaudeが作られた頃はまだ、天然のインド藍による藍染めの方が多かった時代と考えられます。
着込む前には、ハリが強く濃いインディゴの上にブラックをかぶせた真黒のシャリシャリした手触りのリネンが、長い時間で体に馴染むしなやかでくったりした風合いに。しっとりとした手触りと張りがありながら、柔らかさと軽さを併せ持つ麻の良い部分だけを集約したかのような、昔の生地特有の素朴な趣きを残す風合いを持っています。
背や肩のヨークや袖にとったギャザーの作り出す控えめな柔らかさ。今着るアウターとしての機能を果たすために作ったポケット。手で縫いとめたuselessポケットもちょっとしたアクセント。
ダメージを補修して飾るきりはぎ、パッチ、ダーニング、刺子のステッチを、一針ずつ丹念に、様々な方法で彩りました。色むら、擦り切れ、破れ、陽灼け、退色の痕。偶然と時間と人の手が紡ぎ出すアートです。
綿素材を輸入に頼るのに比して自国での栽培が盛んで入手が容易で身近なフランスのリネンですが、しっかり着込まれた年月の経過を映す様々な質感と色合いが入り混じる深い趣を持つ生地は、枯れた風合いがさらに味わいを高めています。
100年以上の時を経た、この存在自体がユニークなスモックを羽織れるようなコートにALTERATIONした1着です。肩と袖を取り外し、直線だった袖付け線のアームホールをくり、袖肩に立体感を作り着やすい形へALTERATIONしています。袖丈を加え、カフスやライニングやポケットを作り、前開きに変更するなど、様々な工程を積み上げたものです。
カフスの分量をを少し広げ、ラウンド型でステッチの無い仕事着のものとはまた違ったソフトな印象ものに。ライニングの裾はリネンのハンドステッチ。ミシンでは作れない自然な縫いしわが時間の痕跡を映します。
ボタンはフレンチヴィンテージのデッドストックのボタンです。グレーの2トーンの組み合わせと凝った形が、味わいを加えてくれます。ボタンホールはリネンのコードであえてラフに手でかがって作りました。
ハンドステッチでのラスティックコットンのライニング。手の温もりではなくストイックさが伝わる自然で不揃いなステッチ、縫い皺の表情や生地のコントラストが乾いた奥行きを作り出します。
着込まれ、働くことを経た事で得た彩りは、決して加工では再現することのできない、創造性を持つ時間の痕跡です。
衣服は骨董的な価値を求めるものではありません。その時、その時代を積み重ねて今に繋がる輝きに、現代性を融合させた「古くて新しく、新しいけど古い」もの。1点だけの存在を楽しんでいただきたいと思います。
サイズ 2
肩幅 =40cm
バスト=55cm(脇下)
袖丈 =62 cm
着丈 =108cm
フランス/日本製
フロントファブリック ナチュラルインディゴフレンチリネン リネン100%
バックファブリック ラスティックコットンブロード コットン100%
ボタン デッドストックフレンチレジンボタン&
ヴィンテージガラスボタン&古布くるみボタン
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Early 1900’s Antique French Natural Indigo Linen Maquignon Smock Coat
[ALTERATION By Manure of Drawers] SOLD