Late 19th Century Antique Natural Indigo French Linen Maquignon Biaude Coat for Ladies
テーラーリングをベースとした立体的なパターンメイクや、機能性とファッションとしての装飾性を見事に融合、昇華させたフランスのワークウェアの世界。現代に通用するモダンさを持ったスタイリッシュなワークウエアが勢ぞろいする中で、全く違った魅力を持つのがBiaudeです。
19世紀末に作られたBiaudeです。19世紀から20世紀中期ぐらいまでに着られていた、中世以降の農夫の作業着だったチュニックやスモックが原型となったものです。馬や牛の放牧などの牧畜者、羊飼いなども着たと言われていますが、中でもMaquignonという名で呼ばれる馬の仲買人が着ていたことがよく知られています。Maquignonは元々オランダ語のmakelare(仲介や交渉)から派生した名称で、当初は馬のディーラーを指していましたが、やがて馬主や飼育業者までを指す言葉となっていったようです。
仕事や作業をするときの上っ張りとして、古くからの民族衣装が転用されて発達したワークウェアです。都市部や工場などで産業の発達とともにスタイルが出来上がっていった、“フレンチワーク”と呼ばれるワークウェアよりも深いルーツに根ざしていて、ひときわ異彩を放つフォルムに深い趣きがあります。
前に開きのあるコートタイプのものが増えました。原型はも汚れや家畜の毛がつかないようにする為の上っ張りとして、着ている服の上に頭からかぶって覆うノーカラーのスモック形が主でした。この1着もプルオーバーのノーカラースモックのタイプの物でしたが、現代的な着やすさを考えて、前開きを作り、衿を付け、ライニングを施すことで得られる清潔感と、内側と外側のテクスチャーのコントラストを楽しみ羽織れるアウターとしてALTERATIONを行いました。特徴的なのは、服の上からかぶり込んでも窮屈になったり、動きを妨げたりせず仕事や作業をこなすための運動性を保つ、手で丹念にたたみ込まれ、折りあげられた分量たっぷりのギャザーです。
この特別な作りが生み出すフォルムは女性的と捉えられがちですが、Biaudeはフランスの仕事着を代表する存在の1つです。同じ頃にアメリカで牧畜に携わっていた人々の仕事着である所謂カウボーイやウエスタンのスタイルと比べればその存在感と独自なスタイル、フランスという国の国柄を感じます。
古いBiaudeは着丈の枚の長さの1枚の布の真ん中をくり抜き、そのくり抜き部分にギャザーを寄せてネック部分が作られていきます。前身頃と後身頃は繋がった1枚の布で、ギャザーにまわった分量以外の元の生地幅全てが肩幅になる形で、肩は幅がかなり広くなります。元の生地幅とギャザーの分量によって少し差がありますが、ヨークが無いので肩の前後位置が定まりにくい上に、かなり落ちてしまう肩と脇が身頃を引きずって、分量がある割に動きを妨げられる感覚がある場合も多いです。
この一着では、一旦袖と肩を解体して肩幅を調整しています。元々の味わい深い作りを壊さない範囲で、着やすさにも配慮しました。まっすぐで体に沿わない肩には、傾斜を作りました。直線のアームホールや袖付も曲線的なものにして、着やすさと動きやすさを実現しています。
肩と脇を解き、サイズを調節した後、シームはリネンのコードで縫端を手でステッチして仕上げています。
左腰には、手でとめた役立たずポケット。上っ張りとして作られたこの一着にはポケットが無く、内側に手を差し入れられるスリットだけがありました。元のパーツを利用して新たにポケットを作り、今のアウターとしての必要を満たしました。ポケットの袋布をつけるのは手縫い、ポケット口を押さえるのも手縫いです。
このBiaudeの生地としてポピュラーな生地は、世界のリネン原料の亜麻生産の70%以上を生み出し続けるリネン大国フランスならではの、仕事着に使うのがもったいないほどの贅沢なリネン生地です。
細番手のリネン糸で、高密度に織り上げた目の詰まった生地は機械技術がまだまだ未発達でほとんど職人の手仕事で麻を処理し、糸を紡ぎ、織り上げた時代のものとは思えないほど細くしなやかな糸で稠密に織り上げられていて動物の毛がつきにくく払いやすいように考え出されたものだということです。
汚れを目立たせないためにも濃いインディゴブルーに染め上げられた生地は、Biaude独特のものです。このBiaudeが作られた1800年末頃には、ヨーロッパ独自の藍染め方法であるウォードによる藍染はすでに、15世紀から始まったインドから輸入されるインド藍による藍染め方に駆逐されてしまっていました。藍染めの技術の革新である、合成インディゴの普及は1897年以降でしたから、この1着は、天然のインド藍による藍染めリネンが作られていた時代の貴重なものにあたります。
オリジナルの袖先のカフスは、作業時に邪魔にならないようにギャザーを寄せて絞ったタイトな袖口を止めるためだけのものでした。アウターとしての機能を加えるに当たってカフスの分量をを少し広げ、ラウンド型でステッチの無い仕事着のものとはまた違ったソフトな印象のものに作り替えました。
ライニングの裾はリネンのハンドステッチ。ライニングを縫ったのも、すべて手によるブラインドステッチです。ミシンでは作り得ない柔らかな縫いしわが作るのは、手の温もりや素朴さではなくストイック。
ボタンホールはすべてハンドです。リネンコードであえてラフにかがった、味のあるものです。
ダメージへのただ穴を塞ぐだけではないダーニング。リネンのコード糸で編んだ飾る補修。
内ポケットは手で内側をすくい縫いして、縁の浮いた立体的でふくよかな表情です。 男性なら胸につける内ポケットは、女性向けに腰の位置に。
カフスの色あせたインディゴリネンのパッチ補修。
左右両方にボタンホールを作っています。貝とガラスのボタンをつないだボタンは、左右どちらにでも留められます。乳白色のガラス面でも黒のシェル面でも、どちらを表にしても留められます。
アンティークのシェル(アコヤ貝?)とヴィンテージのガラスボタンを繋いだリンクボタン。5mm近い厚みのある丸く柔らかなフォルム。職人の仕事を感じさせてくれる、糸通しの穴のくり抜きの作り。フランス庶民の強い味方の乳白色のガラスボタン。リネンコードで2つを繋いで、フランスのヴィンテージリボンを巻きつけました。
働くひとたちのものだった事と示す、擦り切れ、破れを丹念に手でかがり、裏地をあてて糸を刺し、穴に糸を組んだ補修の数々。意図して作る事の出来ない経てきた時間を楽しんでいただきたいと思います。
仕事のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、現代にも通じる洗練された趣あふれる佇まいを持つ、フランスの古いけれども古びれない1着です。
サイズ ♀(女性向けM)
肩幅 =39cm
バスト=95cm(脇下~裾)
袖丈 =57 cm
着丈 =105cm
フランス/日本製
フロントファブリック ナチュラルインディゴフレンチリネン リネン100%
バックファブリック ラスティックコットンブロード コットン100%
ボタン アンティークシェルボタン&ヴィンテージ フレンチガラスボタン
STOREへのリンク
Late 19th Century Antique Natural Indigo French Linen Maquignon Biaude Coat for Ladies
[ALTERATION By Manure of Drawers] SOLD