Early 20th Century Antique ALTERATION French Black Dyed Indigo Linen Maquignon’s Old Work Coat
撚り杢のソルト&ペッパー生地のアトリエコートやフレンチサージやモールスキンのカバーオールやワークパンツ、太畝ピケのハンティングジャケットなど、独自のスタイルを見せながらも、現代に通用するモダンさを持ったスタイリッシュなフランスのワークウエア。
こうした一般的な労働着以外にも仕事の内容や、豊かな感性に彩られたフランス独自の様々な労働着がありました。
そんなフランスを代表する仕事着の1つ、Villetteと呼ばれたインディゴリネンの生地で作られたワークコート。Maquignonと呼ばれた牧畜業(馬や牛の放牧や仲買い人)や家畜・食肉市場に携わった人々の仕事着です。
Maquignonは元々オランダ語のmakelare(仲介や交渉)から派生した名称で、当初は馬のディーラーを指していましたが、やがて馬主や飼育業者までを指す言葉となりました。Villetteも、1974年に閉鎖されるまで牛や羊など家畜業者が集まったパリのLa Villetteの家畜・食肉市場のことですが、この市場で働く人たちが着ていた仕事着やその仕事着に使われるリネン生地までもを指す名称になったようです。
その原型と考えられているのが、フランスの中央山塊のオーベルニュ(Auvergne)地方の民族衣装です。この農業条件不利地域で、耕作に適さない山地のオーベルニュでは、牛飼養農家が全体の約70%を占め、残りを羊飼養と馬飼養、耕種農業が構成しています。他にもこの地域のカンタル県では馬飼養の長い歴史があり、馬の飼育で有名なノルマンディーなどから馬の取引に来たMaquignonにこの衣装が伝わり、Biaudeとして広がっていたのではないかという説があります。
仕事や作業をするときの上っ張りとして、古くからの民族衣装から発達したこのワークウェアは、都市部や工場などで産業の発達とともにスタイルが出来上がった、“フレンチワーク”と呼ばれイメージされるワークウェアよりも深いルーツに根ざしていて、ひときわ異彩を放つフォルムに深い趣きがありました。
オーベルニュの人々はこのインディゴリネンのスモック以外にも、フランスを語る上で欠かせないものを生み出しています。耕作が出来ず貧しかったオーベルニュの人々は、パリやリヨンなどの都会へ出稼ぎに出ることが必要でした。その仕事は、水道のなかった頃には重い水を担いで売り歩き、水道が普及すると入浴のための湯を売り歩き、湯を沸かす炭を売るといった典型的な肉体労働でした。
やがて、炭を売るために必要な保管場所として借りた部屋をもっと利用しようと考えて、片隅で酒や飲み物を売り始めたのが、フランスのカフェの始まりと考えられています。実際に2000年ごろまではカフェ経営者の80%ぐらいはオーベルニュ出身者で占められていて、フランスが世界に誇るカフェ文化を作り上げたのが、パリの洗練とは対極にある山村の出身者だというのは面白い対比です。朝早くから夜遅くまで休みなく飲み物も酒も食べ物も提供するカフェは、忙しくきつい商売なので後継者の不足が深刻で、オーベルニュ出身者の比率は最近では30%ほどに減少してしまいました。オーベルニュ人にとり変わってカフェの権利を引き継いだのは、こういったきつい仕事を厭わない中国人。寂しい時代の趨勢です。
20世紀に入ると、19世紀からの主流だったリネンのBiaudeの民族衣装の流れをくむプルオーバースモック形は、より着やすい前開きのコート型になりました。さらに現代では畜産業の近代化、産業化、規模拡大が進むにつれて、仕事の伝統色よりも効率や利便性が求められ、Maquignonが着る作業着として伝統的なブラックインディゴ染めのリネンのものは、生地も形も消え去ってしまいました。
テーラーワークを基本としたパターンメイクと縫製が、「 ファッション 」 と対極の位置にあるはずの「仕事着」を、今でも様々なメゾンやデザイナーがモデルとする高みに位置付けています。
手でまつりつけたライニング。手の温もりではなくストイックさを伝える不揃いなステッチ、縫い皺の表情や生地のコントラストが乾いた奥行きを作り出します。適度な厚みのある未晒しの素朴な風合いとしわが魅力の、インドで織られたコットンブロードのライニングは、表地とのコントラストと清潔感を作り出してくれます。
全体に散らばる細かな擦り切れからは、かつての持ち主の愛着が伝わります。生地をあて、糸でかがり、糸を刺す。さまざまな手法で飾ったその痕跡は、意図して作れないものです。
ダメージと補修のパッチ、ダーニング。着込まれ、働くことを経た事で得た細かなダメージの補修の彩りは決して加工では再現することのできない、時間を映し出してくれます。
Maquignonの仕事着を特徴付ける、はさみ、ブラシ、櫛など、馬や牛の手入れに使う道具を収めるための胸ポケット。
内ポケットはポケット口とハンドステッチが効いたソフトなフォルムで、端部を浮かせた手のすくい縫いがつくる丸みのあるもの。
ボタンはグレーの濃淡の色合いがモダンな味のあるデッドストックの樹脂のもの。首元まで留められるようにボタンを増やし、衿を立てられる仕様に。
生地は世界のリネン原料の亜麻の80%以上を生み出し続けるリネン大国フランスならではのもの。仕事着に使うのがもったいないほどの贅沢なリネンで、しっかりとした手触りと張りがありながら、柔らかさと軽さを併せ持つ麻の良い部分だけを集約したかのような昔の生地特有の素朴な趣きを残す風合いを持っています。
リネンのハンドステッチが効いた、少し厚みを持たせたライニングの裾。
防水、高発汗、強靭、難燃。素材はどんどん高機能になり、形も運動性や作業効率を追求したものへと進化を続けてきましたが、ファッション的には退化しているに違いないワークウェアの世界。近年、フランス独特の際立った独自性がどんどん薄まってしまったり、アイテムそのものが作られなくなってしまったのは残念でなりません。
このコートのように昔のフランスのワークウェアは、働く人達のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、「着心地」と「デザインの洗練」を忘れないものでした。今も多くのデザイナーやブランドが砂を吹きかけ、石と一緒に洗い、紙やすりで削り、薬品に浸し、倉庫に眠る古の生地を掘り起こし、100年前の機織り機を修理して生地を織り、眠っていたミシンに油を注して過去に遡り、時間を経なければ、簡単には手にすることの叶わ無いものを、再現しようと努力を続け奮闘しています。
でもそれは、長い時間を経てきたものへの憧憬を形にした、表層的な作り物にしか、なり得ないのかもしれません。ここにあるのは、本当に長い時間を経過した痕跡を凝集した本物に、現代性を融合させたものが形になった一着です。衣服は骨董的な価値を求めるものではありません。その時、その時代の「最新」を積み重ねて今に繋がる輝きを、現代的な着装や感覚と融合させ「古くて新しく、新しいけど古い」ものとして昇華させた世界に1点だけの存在を楽しんでいただきたいと思います。
サイズ2
肩幅 = 48cm
バスト= 59cm (脇下)
袖丈 = 60cm
着丈 = 95cm
フランス/日本製
フロントファブリック = Black Dyed Indigo Linen Villette / Linen 100%
バックファブリック = Indian Rustic Cotton Broad Cloth / Cotton100%
ボタン = Dead Stock French Resin Buttons
& Antique Fabric Covered Buttons
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Early 20th Century Antique ALTERATION French Black Dyed Indigo Linen Maquignon’s Old Work Coat
[ALTERATION By Manure Of Drawers] SOLD