1960-1970 Vintage British Railways Vulcanized Rubber Rubberized Rain Mac
1997年までイギリスの鉄道事業を統括していた英国国有鉄道会社(British Rail)の前身のBritish Railways(BR)の、マッキントッシュクロスのコートには現代のものには無い、実用的な要求が作り出した迫力に満ちています。裾に向かって広がる緩やかなトラペーズラインのシルエットや膝上まである丈など生地の存在感とともに、新たに作られたものには持ち得ない存在感を放ちます。
British Railwaysは1969年以降British Railに変更され、1997年に完全民営化で解体されましたが、その中でマッキントッシュクロス製の外套が支給されていたのは、1970年代初頭ぐらいまでで、それ以降はより廉価で大量生産しやすいGANNEXその他のものに変更されていきました。
冬の極寒と雨と霧といった英国の厳しい気候に耐える必要のあるBRの支給品の使用環境、頑丈さと防水性といった実用面を満たすタフな仕様は、現行のタウンユーズのものにはない生地のボリュームと迫力を持っています。マッキントッシュ独特のゴムのボヨンとした生地のボリューム感や感触は、60年以上も前のものとは思えない良い状態です。デッドストックであっても、剥離やゴムの硬化が見られることの多い中で、完全な状態のものは滅多に見られないレアなものです。
初期のものやBRやミリタリーのMacintoshの生地は、頑丈さに対する必要性から綿のドリルのような厚地の生地を使ったものが多く、着心地も扱いも非常に厄介な部分がありました。1960年代中期のものと思われるこのコートは、表地にナイロンポプリンが採用されたツヤのある表面感の1枚です。ナイロンが開発されて20年以上経ってはいましたが、当時としては一般的にはまだまだ馴染みの薄い素材であり、このような形で使われたのは実験的なものでもあったのだろうと思われます。インナーサイドはウールのBritish Railwaysのタータンチェック。グレーを主体としたシックな配色のオリジナルパターンです。
今から200年も前の1823年に スコットランドの科学者だったCharles Macintoshが発明した防水生地と製法を、今まで受け継いできたマッキントッシュの歴史は、カシミアやツイードのようにスコットランドの伝統産業と呼んで良いものです。マッキントッシュと同じように英国を代表するBarbourの創業は1894年。イングランド北東部のサウスシールズで、北海の悪天候の下で働く漁師など労働者のための実用着として作った「ビーコン」が始まりです。Barbourはその一番の売りであるワックスコットン(オイルスキン)を自分達で開発した訳ではありません。帆船の帆の材料として作り出された生地を、帆船から機関船への移行で帆のニーズが先細りになり帆布以外にガーメント製造への進出を画策していた、セイルメーカーのWebster’s社から提供を受けたのです。
Charles Macintoshがマンチェスターで設立したCharles Macintosh India Rubber Companyは、当初の製品の生地のゴムのきつい匂いや、剥離、溶解などの問題から不安定な経営状態が続きました。その後、独創的な発明でゴム工業を確立させ、イギリスのゴム工業の父と呼ばれた発明家であるThomas Hancockが共同経営者となり、製品は改良と安定が進んでいくことになりました。
この頃のマッキントッシュは、自らのブランドや社名を冠した完成品の製造はあまり行っておらず、生地の供給が主体でした。ガーメントの製造は布地を買い付けた数多くの小さな企業や街の仕立て屋のもので、それぞれが自分達の店名やブランドで販売していました。「MAC」が、英国でレインコート全般を示す名前となって定着したのは、自社1社だけの製品では全土に行き渡ることはなかったはずの生地の略称の「MAC」が、生地を買った国中の様々な業者で使われたからこそなのです。
ただBarbourに比べて高価で扱いの難しいマッキントッシュ製品を、購入できる人々の数には限定的なものがありました。マッキントッシュを大きく発展させたのは、鉄道会社の支給品や警察、消防などの官用支給品や、ミリタリー関連などへの採用でした。ミリタリーやBR向けのMACは短期間に大量に作る必要があったので、生地もマッキントッシュ本社1社だけでは作りきれず、他社で製造された物の方が数量的にははるかに多く流通しました。Charles Macintosh の発明した生地の特許は、1837年に失効していましたから、技術を受け継いだ様々な会社が生地と製品を製造し続けました。
これらの支給品で多用されたマッキントッシュ。しかし、それらの官給品、支給品は、第二次大戦後の近代化とともに続々と開発されたナイロンやポリウレタンの新繊維、ゴアテックスなどの高機能素材に置き換えられて行きました。時代の進化と技術発展の趨勢には抗えず、何社もあったマッキントッシュ製品の製造会社は次々に廃業、倒産となり、開発元であるCharles Macintosh India Rubber Companyも、1925年にDunlop によって買収され、2000年には工場を閉鎖してしまいました。共同経営者だったThomas Hancockの会社「Talworth Ltd=1974年からは「Traditional Weatherwear Ltd」も、90年代には先行きの見えない状態へと転落してしまいました。
そうした中で、Traditional Weatherwear Ltdの工場スタッフからスタートした社員の一人、英国に夢を求めて渡ってきたウクライナ移民2世のDaniel Dunkoが、新たな販路の開発とブランドの確立に着手しました。彼は、生地の名前やその生地名から派生したコートの総称としての“MAC”は浸透していても、ブランドとしてのマッキントッシュは存在せず、認知も無い状態を変革するために「Mackintosh」の商標を登録し(それまで誰もやれなかった)、苦労の末その権利を確立しました。類似品を排除するとともに、生地からガーメントまでを統括し、高級ブランドとしてのリ・ブランディングを行うことに成功しました。そして「Traditional Weatherwear Ltd」から株を買い取り、2000年に「Mackintosh Ltd」として再独立を果たした後、2007年からは日本の八木通商の傘下となっています。
BRの仕様品のトレードマークの迫力のある漆黒のMAC。真っ黒なカラーが着る人と一緒にどんな風に変化していくのかが楽しみです。
ライニングしたはマッキントッシュと同じく、イギリスが生んだ高機能素材のVentile Cotton clothです。英国空軍のパイロットが撃墜などで冷たい海に投げ出された時にも、水の浸入を防ぐとともに内部の空気を逃さず浮力を確保して、救助を待てるようにと考えられた生地という事は、よく知られています。
長繊維綿の双糸を経緯ともに超高密度に織り上げて、外からの水は遮断しつつも、内部の汗や水蒸気は外に出す防水性、透湿性、通気性の三拍子に加えて、独特のハリ感とフラットな生地の表面感といった、生地自体のテクスチャーの良さ、という四拍子を備えた独自の位置付けを確立した生地です。
脇に開けられたベンチレーションのための5つのアイレットは、実用性以外にも、マッキントッシュクロス製品ということを示すアイコンとしての格別の存在感があります。
ライナーにもベンチレーションホールを開け、ボンディング生地をトリムした柔らかな膨らみをのある内ポケットをセット。
ゴムをボンディングしたマッキントッシュクロスの面白さは、防水性や生地独特のボリューム感の他に、ゴムでボンディング(貼り合わせ)されることで生地の切断部がほつれない(ほつれにくい)面白さがあります。
このコートではこのマッキントッシュクロスの「ほつれにくい」特性を活かして、裾と袖口や前端を切り放しにして、この生地だからこそのシャープなエッジの面白さと、ボリュームと迫力のせいで重く見えがちな端部の印象に軽さを加えています。
ボタンは英国の1950-1960年代のVintageのデッドストックです。通常に見られる角のボタンのほとんどは水牛の角から作られているもので、主としてアジア圏の水牛の角をアジア圏で加工したものです。このボタンは、英国の有名紳士服ブランドの注文により特別に作られた、英国の牛(ヘレフォードやアバディーンアンガス)の角を使って英国で作られたものです。
4-6mmという厚み、裏側の皮付き仕上げ、ブラウン、ブラック、乳白、透け感のあるベージュと濁ったベージュなどが自然に入り混じった角の色合い、27mmという大きさ、モダンな印象をも感じさせる、間隔が広く大きな穴の4つのボタン穴、丸く切り出した形を粗く削っただけで素のままの表情を活かした風合い、どこを取っても迫力と良さしかない60年以上も前の逸品のボタンです。
製造者のケアラベルと型番などがプリントされたラベル。Kが入らないMacintoshは、スコットランドに多い姓で、この生地の発明者の名前ですが、ラベルに書かれているMACINTOSHESの表すものは製造会社やブランドの表示ではなく、マッキントッシュクロスで作られたもの全般を表す言葉です。マッキントッシュ本体が製造したものや、今ブランドとして販売されているマッキントッシュにはKの入ったMackintoshが表示されています。
長い着丈と、たっぷりとした裾の蹴回し分量が作るトラペーズラインが、迫力のあるフォルムを描きます。このタイプのコートは、今では散見する程度にまで少なくなってしまいました。
雨や雪がつきものの中で作業するスタッフのためのタフな存在感が際立ちます。
そのままのヴィンテージでは作れないモダンなスタイルと、新たに作られたコンテンポラリーな物には無い時を経た深み。その両方を兼ね備えた1着が、ヴィンテージにも新しい服にも、作り出せないその人自身のスタイルを創り出します。
サイズ 2
バスト= 57cm (脇下)
裄丈(ラグランスリーブ)= 84cm(肩幅45cm袖丈62 cm相当)
着丈 = 113cm
イギリス/日本製
Front Fabric = Nylon Poplin & British Railways Original Tartan Wool Bonding Mackintosh Cloth / Nylon,Wool,Rubber
Lining Fabric = Ventile Cotton cloth / Cotton 100%
Button = 1950-1960 Vintage French Cow Horn Button (Dead stock & Random choice)
& Antique Fabric Covered Button
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1960-1970 Vintage British Railways Vulcanized Rubber Rubberized Rain Mac
[ALTERATION By Manure Of Drawers] SOLD