新しいけど古いもの

新しいけど古いもの

Antique Coachmans Black Striped Wool Coat

Antique Coachmans Black Striped Wool Coat

 

 

 

Early 1900’s Antique Old French Charrette Coachmans Black Striped Wool Coat

 

 

 

昔のフランスのワークウェアの良さは、何と言ってもテーラーワークを基本にしたパターンと縫製が作り出す立体的で曲線的なデザインと、雰囲気溢れる生地の表情。アメリカやイギリスのように、コントラストをつけた太く頑丈なステッチが2重3重に入るタフで無骨なワークウェアとは全くの別世界の代物です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトリエコートやブルーのフレンチサージのワークウェアなど、一般的な労働着以外にも、農業や牧畜に従事する人々向けに作られたBiaudeなど豊かな感性に彩られたフランス独自の様々な労働着がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防水、高発汗、強靭、難燃。素材はどんどん高機能になり、形も運動性や作業効率を追求したものへと進化を続けてきましたが、ファッション的には退化しているに違いないワークウェアの世界。フランス独特の際立った独自性がどんどん薄まってしまったり、アイテムそのものが作られなくなってしまったのは残念でなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなフランスのワークウェアの中でも異彩を放つ、今では存在しない仕事のための仕事着がこの馭者のためのコートです。フランスならではのミニマルで立体的なデザインとパターンで仕立てられた、今見ても目をみはるほどの存在感を持つ1着です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このコートが仕立てられた19世紀の終わりから20世紀の初め頃には、輸送を担うフランスでの鉄道の幹線網は出来上がっていましたが、幹線の駅から先を受け継ぐ自動車はまだ未発達であり、人も荷物も最終地点へ届ける手段は馬車が担っていました。その馬車の中で、“Charrette”と呼ばれる荷馬車の御者が主に着ていたオーバーコートがこの1着です。

 

 

 

 

 

 

“Charrette”を広義の荷車と捉えると2輪の簡素な物も想像されますが、初めの4文字“Char”から英語の“Car”が生まれた事が示す通り、“Char”は四輪の荷馬車で、このようなものだったようです。

 

 

 

馬車の先頭の馭者台で馬を操る馭者は、常に外に体を晒し、雨の日も風の日も雪の日も従事しなければなりません。人が客室で、荷物はシートに覆われて雨や雪から守られている時も馭者はそのまま馬を操らなければなりません。そんな過酷な仕事の要求に応えるコートだけに、しっかりと織られた生地は、ボイル加工を加えて少しフェルト化させた稠密さで、風をはねのけ雨の浸透も簡単には許さないものです。

 

 

 

 

 

 

さらに裏を起毛した生地は、熱を逃さ無い上に風も通しません。

遠目にはわからないほど控えめなコントラストで深く黒に近いブラウンの糸と、ドビーの織り柄ストライプが入るシックな生地。働く人達のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、「着心地」と「デザインの洗練」を忘れないのが、モード発祥の地、フランスのエスプリ精神の形なのだと思います。

 

 

 

 

 

 

ビスポークの仕事が発揮された、体のラインに沿う肩傾斜や エレガントな袖付けと、腕の稼働の必要性に合わせて曲線を描きだす美しい袖の作り。高めのゴージラインの曲線に沿った襟。風の侵入を防ぐ比翼仕立ての前たて。

 

 

 

 

 

 

全体のフォルムは比較的コンパクトな上半身から、蹴回し分量のたっぷりの裾に向けて広がる、エレガントなシルエット。大昔のワークウェアとは思えないモダンさがあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深いベントが切られたバックスタイルはさらに洗練された佇まいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーラーワークを基本としたパターンメイクと縫製が、「 ファッション 」 と対極の位置にあるはずの「仕事着」を、今でも様々なメゾンやデザイナーがモデルとする高みに位置付けています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この存在自体が貴重で希少なコートにALTERATIONを加えた1着です。

 

 

 

 

 

 

ライニングしたのはイギリスが生んだ高機能素材のベンタイルです。英国空軍のパイロットが撃墜などで冷たい海に投げ出された時にも、水の浸入を防いで体温の低下を防止して、それとともに内部の空気を逃さず浮力を確保して、救助を待てるようにと考えられた生地という事は、よく知られています。

 

 

 

 

 

 

汚れ破れ擦り切れていた裏地を、イギリスが誇る防水防風素材のベンタイルに付け替えて、全体に張り感やボリューム感を与えるとともに、表地とのコントラストの面白さと、Vintegeにつきまとう不潔感を解消し、さらに風を通さず温かく清潔で明るくモダンな表情を与えています。

 

 

 

 

 

 

100年にわたってこびり付いた埃を取り除く為に作り変えた袋布は、フラップの裏のコントラストと同じく全体を引き締めるアクセントとっています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長年の使用でほつれたボタンホールはリネンコードでかがり直しました。比翼の内張もベンタイルとリネンに付け替えて、アクセントになる顔つきを加えています。

 

 

 

 

 

 

ハンドでのベンタイルのライニング。手の温もりではなくストイックさを伝える不揃いなステッチ、縫い皺の表情や生地のコントラストが乾いた奥行きを作り出します。

 

 

 

 

 

 

着込まれ、働くことを経た事で得た細かなダメージの補修の彩りは決して加工では再現することのできない、創造性を持つ時間を映す痕跡です。

 

 

 

 

 

 

トリミングとハンドステッチが効いたソフトなフォルムで端部を浮かせた手のすくい縫いが膨らみと丸みを加える内ポケット。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一ボタンの無かった襟のフラワーホールを拡げて、襟を立てて止められるように。小さめの上襟は襟を立てた姿が誰でも様になる、ちょうど良い大きさです。加えたボタンはアンティークのメタルボタン。止めた時のアクセントとになる良い顔立ち。

 

 

 

 

 

 

今も多くのデザイナーやブランドが砂を吹きかけ、石と一緒に洗い、紙やすりで削り、薬品に浸し、倉庫に眠る古の生地を掘り起こし、100年前の機織り機を修理して生地を織り、眠っていたミシンに油を注して過去に遡り、時間を経なければ、簡単には手にすることの叶わ無いものを、再現しようと努力を続け奮闘しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそれは、長い時間を経てきたものへの憧憬を形にした、表層的な作り物にしか、なり得ないのかもしれません。ここにあるのは、本当に長い時間を経過した痕跡を凝集した本物に、現代性を融合させたものが形になった一着です。

 

 

 

 

 

 

衣服は骨董的な価値を求めるものではありません。

その時、その時代の「最新」を積み重ねて今に繋がる輝きを、現代的な着装や感覚と融合させ「古くて新しく、新しいけど古い」ものとして昇華させた、世界に1点だけの存在を楽しんでいただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

サイズ 2(M相当 )

肩幅 = 44cm

バスト= 52cm (脇下)

袖丈 = 60cm

着丈 = 103cm 

フランス/日本製
フロントファブリック  圧縮ドビーストライプウール           ウール100%
バックファブリック   ベンタイルコットン                コットン 100%
ボタン         オリジナル&アンティークメタル&古布くるみボタン 

 

 

 

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Early 1900’s Antique Old French Charrette Coachmans Black Striped Wool Coat

[ALTERATION By Manure Of Drawers] SOLD

 

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