新しいけど古いもの

新しいけど古いもの

Vintage French Linen/Cotton “Metis” Black Coating Maquignon Coat

Vintage French Linen/Cotton “Metis” Black Coating Maquignon  Coat

 

1930~1940  Vintage French Linen/Cotton “Metis” Black Coating Cattle Dealer Maquignon Coat

 

 

 

撚り杢のソルト&ペッパー生地のアトリエコートやフレンチサージやモールスキンのカバーオールやワークパンツ、太畝ピケのハンティングジャケットなど、独自のスタイルを見せながらも、現代に通用するモダンさを持ったスタイリッシュなワークウエアが勢ぞろいする中で、全く違った魅力を持つ仕事着がフランスにはあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アトリエコートやブルーのフレンチサージのワークウェアなど、一般的な労働着以外にも仕事の内容に合わせた、豊かな感性に彩られたフランス独自の様々な労働着がありました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなフランスを代表する仕事着の1つ、Maquignonと呼ばれた牧畜業(馬や牛の放牧や仲買い人)や家畜・食肉市場に携わった人々の仕事着のbiaudeをalterationしたコートです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Maquignonは元々オランダ語のmakelare(仲介や交渉)から派生した名称で、当初は馬のディーラーを指していましたが、やがて馬主や飼育業者までを指す言葉となりました。Villetteも、1974年に閉鎖されるまで牛や羊など家畜業者が集まったパリのLa Villetteの家畜・食肉市場のことですが、この市場で働く人たちが着ていた仕事着やその仕事着に使われるリネン生地までもを指す名称になったようです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20世紀に入ると、19世紀からの主流だったリネンのBiaudeの民族衣装の流れをくむプルオーバースモック形は、より着やすい前開き型になりました。畜産業の近代化、産業化、規模拡大が進むにつれて、仕事の伝統色よりも効率や利便性が求められるなか、Maquignonが着る作業着として伝統的なブラックインディゴ染めのリネンのものは、やがて消え去ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのBiaudeを変更し、生成りのライニングを作成し裏地を取り付けて膨らみのある表情を加えたり、ダメージの補修とパッチをデザインするなど、今着る服へとALTERATIONを加えた1着です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手でまつりつけたライニング。手の温もりではなくストイックさを伝える不揃いなステッチ、縫い皺の表情や生地のコントラストが乾いた奥行きを作り出します。適度な厚みのある未晒しの素朴な風合いとしわが魅力の、インドで織られたコットンブロードのライニングは、表地とのコントラストと清潔感を作り出してくれます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衿裏のステッチ、腕に沿ってカーブを描く袖の立体的なフォルム、シームのハンドステッチ、ダメージへの細やかなdarningとpatch。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リネンの枯れた風合い、色の濃淡、全体に散らばる細かな擦り切れからは、かつての持ち主の愛着が伝わります。生地をあて、糸でかがり、糸を刺す。さまざまな手法で飾ったその痕跡は、加工では決して作れないものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメージと補修のパッチ、ダーニング。着込まれ、働くことを経た事で得た細かなダメージの補修の彩りは決して加工では再現することのできない、創造性を持つ時間を映し出してくれます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生地はフランス特産のリネンとコットンを組み合わせた“Metis”の平織りです。Maquignonの仕事着に使われるリネンの“Villette”と同じく、動物の毛がはらいやすく、汚れも抑える蛋白などによる加工が行われた生地の、独特な光沢と表面感を持った生地です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インディゴのように色落ちがしやすい顔料系染色の色止めとして行われた蛋白での加工は、中国の少数民族の侗族(トン族)や苗族(ミャオ族)、にも見られる独特な手法で、生地表面に光沢と張りのあるペーパーライクな風合を作り出します。その加工に長い時間が加えた色合いの変化は、とても複雑な表情を作り出してくれます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボタンはグレーの濃淡の色合いがモダンな味のあるデッドストックの樹脂のもの。首元まで留められるようにボタンを増やし、衿を立てられる仕様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生地は世界のリネン原料の亜麻生産の70%以上を生み出し続けるリネン大国フランスならではの、仕事着に使うのがもったいないほどの贅沢なリネンで、しっかりとした手触りと張りがありながら、柔らかさと軽さを併せ持つ麻の良い部分だけを集約したかのような昔の生地特有の素朴な趣きを残す風合いを持っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リネンのハンドステッチでとめた、少し厚みを持たせたライニングの裾。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防水、高発汗、強靭、難燃。素材はどんどん高機能になり、形も運動性や作業効率を追求したものへと進化を続けてきましたが、ファッション的には退化しているに違いないワークウェアの世界。近年、フランス独特の際立った独自性がどんどん薄まってしまったり、アイテムそのものが作られなくなってしまったのは残念でなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このコートのように昔のフランスのワークウェアは、働く人達のために生まれ、機能性の求めに応じて考えられた物であるはずなのに、「着心地」と「デザインの洗練」を忘れないものでした。それこそがモード発祥の地、フランスのエスプリ精神の形だったのだと思います。今も多くのデザイナーやブランドが砂を吹きかけ、石と一緒に洗い、紙やすりで削り、薬品に浸し、倉庫に眠る古の生地を掘り起こし、100年前の機織り機を修理して生地を織り、眠っていたミシンに油を注して過去に遡り、時間を経なければ、簡単には手にすることの叶わ無いものを、再現しようと努力を続け奮闘しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でもそれは、長い時間を経てきたものへの憧憬を形にした、表層的な作り物にしか、なり得ないのかもしれません。ここにあるのは、本当に長い時間を経過した痕跡を凝集した本物に、現代性を融合させたものが形になった一着です。衣服は骨董的な価値を求めるものではありません。その時、その時代の「最新」を積み重ねて今に繋がる輝きを、現代的な着装や感覚と融合させ「古くて新しく、新しいけど古い」ものとして昇華させた世界に1点だけの存在を楽しんでいただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サイズ2

肩幅 = 45cm

バスト= 57cm (脇下)

袖丈 = 59cm

着丈 = 103cm 

フランス/日本製
フロントファブリック  = Black Coating Metis / Linen & Cotton
バックファブリック   = Indian Rustic Cotton Broad Cloth / Cotton100%
ボタン         = Dead Stock French Resin Buttons 

                                    & Antique Fabric Covered Buttons

 

 

STOREへのリンク

 

 

1930~1940  Vintage French Linen/Cotton “Metis” Black Coating Cattle Dealer Maquignon Coat

[ALTERATION By Manure Of Drawers] SOLD